機械式ムーブメントとクロノメーター


1952年、ロンジンは、自社開発の新しい自動巻きキャリバー「19A」を発表しました。ロンジンの工場は自動巻き機構の技術に関する専門知識を確立し、1956年にレディスウォッチ用の楕円形の小型自動巻きムーブメント「14.17」を開発する際に、この知識と経験が活かされました。注油に関する画期的技術により、このキャリバーは、振動数が毎時19 800回のテンプ-ひげゼンマイの組み合わせを備え、ロンジンが開発した唯一のレディスウォッチ自動巻きムーブメントとなっています。調速機構の振動数の増加は、特に電子工学とクォーツに基づいた技術競争が進む状況下で、機械式ムーブメントの基本的な進展傾向を示していました。部品の進歩によって可能となったこの変化は、計時にも影響をもたらしました。1959年、ロンジンは、天文台コンクールのための特別キャリバーを開発。「360」と命名されたこのムーブメントは角が丸い長方形で、きわめて少量の生産でした。このムーブメントは、大手時計メーカーが激しい競争を展開する精度コンクールに出品するのために特別に製作されました。このキャリバー「360」では、構造上の特徴がその機能に表れています。すなわち、キャリバーの総面積が天文台によって定められた限度にきわめて近く、サイズが大きいために大きな主ゼンマイを使用することができ、動力の配分を適切に制御できるようになっていました。またキャリバー「360」の大型のサイズによって、振動数が毎時36 000回の大きなテンプ-ひげゼンマイの組み合わせの使用が可能となり、非常に正確な動作が実現されました。キャリバー「360」は、ヌーシャテル天文台コンクールのクロノメーター腕時計部門で精度に関する記録を打ち立てました。

1957年、ロンジンは、「Flagship」という名の時計を発表。1955年にロンジンの技術者が製作したキャリバー「30L」が搭載されたこの時計では、それまでとは異なるマーケティング概念が採用されています。つまり、もちろん技術上の特性がこの時計の主要な要素なのですが、このようなモデル名を付けることによって、それまでほとんど活用されていなかった販売戦略の領域が開拓されたのです。ロンジンは、この時計を中心として世界キャンペーンにおける宣伝広告を展開しました。

1950年代末、ロンジンは、あらゆる力を尽くして機械式ムーブメントの改良に取り組みました。当時はまだ、腕時計専用のキャリバーには大幅な改善の余地が残っていたのです。その頃よく採用されていた技術上の方針は、調速機構の振動数を増やすことでした。但し以前とは異なり、キャリバーの設計が時計のモデル創作と同時に行われるようになりました。1959年のバーゼル・フェアで、ロンジンは「Jamboree」と名づけた時計を発表。この時計は、やはり1959年に製作された、様々なバリエーションのあるキャリバー「280」を搭載していました。また同じ年、11½リーニュの新しい自動巻きキャリバー「290」を発表し、これを用いて自動巻きの「Conquest」シリーズを製作しました。他の最新のムーブメントと同様に、キャリバー「290」とそのバリエーションも、振動数が毎時19 800回の調速機構を備えています。1960年にはキャリバー「340」およびそのバリエーション(341、342、343、345)を開発し、これらを「Flagship」モデルに搭載しました。この12リーニュの自動巻きムーブメントもまた、振動数が毎時19 800回のテンプ-ひげゼンマイの組み合わせを備えています。

ロンジンの工場では作業方法の合理化が進められ、そのために経営陣は科学的な作業方式の原理を採用しました。研究開発に関しては、20世紀後半に技術開発プロセスにおける新たな合理化が推進されます。ロンジンの工場では徐々に、時計職人の知識や技術に代わって、エンジニアの科学技術が活用されるようになりました。そして専門的な技術・知識を利用して、当時は模索段階にあった電子工学や化学などの分野を追求しました。こうして、新しい計時技術、特に電子工学やクォーツの技術が伝統的な時計製造技術と併用されるようになります。このように事業における技術が二分化されたことにより、時計製造以外の新しい知識を結集する必要が生じたのです。