クォーツ式キャリバー搭載の腕時計
1969年の初頭には、クォーツ式の電子ムーブメントを搭載した腕時計の製造の可能性について、ロンジンからは何も正式に発表されませんでした。しかし、ロンジン内部では、あるプロジェクトが秘密裏に開始されていたのです。「砂時計プロジェクト」と名づけられたそれは、1970年前にロンジン製のクォーツ時計を開発するというものでした。
ところでロンジンは、電子時計センター(CEH)に先導され、その他の時計メーカーや企業と共同でクォーツの圧電性を利用したムーブメントの可能性を検討していました。この共同研究は、有名なムーブメント「ベータ21」を生み出す結果となりましたが、ロンジンはその技術力を背景に、共同研究と平行して、単独での研究を行っていたのでした。これは、かなりの量産が可能な電子ムーブメントを搭載した腕時計を開発・生産することに焦点を絞ったものでした。物理学者、時計技師、電子工学者、機械技師などからなるロンジンのチームは、18ヶ月の研究開発期間を経て、高額な予算を要した「砂時計プロジェクト」を完了させることができました。これは、ロンジンを除けば、当時その他のほとんどの時計メーカーにとって不可能だった危険な賭けでした。
1950年代からスポーツ競技における計時機器に電子工学を取り入れたり、1960年代半ばからは電子式のデッキ・クロノメーターを製造したりしてきましたが、クォーツ式の電子キャリバーの開発は、ロンジンやその他のスイス時計メーカーがこれまで長い間たどってきた技術的な軌道から外れるものでした。仕組みが異なり、展開の理論も似ておらず、本来の生産設備とは別の設備が必要で、製造方法も異なる。こうした電子の時計業界への侵入は、時計製造における技術的進歩の向かう方向の中ではおそらく「断絶」と見られたことでしょう。しかし、外国の競争相手を前にして、クォーツの採用は、時計業界の人々にとって伝統的な機械式時計の「補足」としての、費用のかかる次善策であると受け止められていたようです。設立当初から自社ムーブメントの開発を支えてきたロンジン独特の理性的思考の下、社の経営陣たちは、相当な予算を要するにも関わらず単独での研究プロジェクトの開始を決定し、それが1969年に発表されたキャリバー「6512」として結実したのでした。「ウルトラクォーツ」と呼ばれる腕時計用のこの電子ムーブメントには、水晶片が用いられ、振動数は毎秒9350サイクルでした。1.35Vの水銀電池を原動力とするこのウルトラクォーツ・ムーブメントは、ウォームねじで歯車装置に連結される振動モーターを搭載していました。このムーブメントは、相互に安定する2つの振動回路を持つという点で、サイバネティック・ムーブメントとしての特徴を備えていました。ウルトラクォーツの設計の論理には、ムーブメントの製造を簡素化するという技術的な選択がありました。特にそこには14のトランジスター、19の抵抗器、7つの容量からなる集積回路を用いることを避けるという意図がありました。つまり、生産が優先されたのです。しかし、電子部品と集積回路の小型化が急速に進歩したことによって、時計メーカーが商品化した世界初の腕時計用電子ムーブメントであったウルトラクォーツ・ムーブメントは、製造におけるその技術的選択の正当性を失ってしまったのでした。
しかしロンジンは、時計製造の伝統の枠にとらわれない製品を市場に送り出すことによって、新たな突破口を見つけようとしました。1972年、ロンジンは、エボーシュ社、テキサス・インスツルメンツ社と共同で開発したアバンギャルドな腕時計を発表。「Longines LCD」(液晶表示)と名づけられたこの時計は、当社のこれまでの製品とは異なり、液晶画面によるデジタル表示を備えていました。年間の誤差が約1分のこの時計は、『インダストリアル・リサーチ』誌のIR100賞を受賞しました。産業・科学技術研究における優秀な製品に贈られるこの賞をスイスの企業が獲得したのはこれが初めてのことでした。